プロダクトを作る上で知っておきたい認知バイアス

ANKR DESIGN
2023-02-10

突然ですが皆さんは、認知バイアスという言葉を知っていますか?

認知バイアスとは一般に「自分の思い込みや周囲の環境などによって、無意識のうちに合理的ではない判断をしてしまう心理現象」と解釈されています。元々は認知心理学や社会心理学の用語ですが、現在はデザインやモノ作りの文脈でも、ユーザを理解する上でこうした人の心理や認知の仕組みまでを理解することが重要視されるようになりました。ここでのモノ作りとは、プロダクトやサービスの開発及びデザインを行うこと一般を指します。

なぜ、こうした人の心理や認知の仕組みを理解することが重要視されてきているのでしょうか。それは、現実世界では人は全てを合理的に捉えて行動しているわけではないため、それを認識することでデザインしたものが必ずしも合理的な判断に基づいて利用されない可能性についても検討できると考えられるようになってきているためです。(「元々、学問の中では人間は合理的な存在として捉えられていた」という話は以前の記事でお話しさせていただきました。)

人は日常の中で選択肢の中から選び行動をするとき、その人の癖がどうしても現れてしまいます。例えば「一刻も早く終わらせるべきタスクでも先延ばししてしまう癖」「欲しくもないのに世間で流行っているものを買ってしまう癖」といった、合理的ではない行動の癖が挙げられるでしょう。そうした癖があるということを理解することで、人々の行動の促進および阻害原因の改善を行っていくのが行動デザインです。この「人の癖」に値する言葉が、認知バイアスです。

ここまで、認知バイアスがデザインやモノ作りという文脈においても重要な意味を持ちうることを紹介しましたが、実際に認知バイアスとデザインを繋げてモノ作りに活かす上では、まず認知バイアスとは何なのかを理解することが必要であるといえます。そこで、本記事では「実務や暮らしにおける認知バイアスを紹介しているWebコンテンツ」をいくつか調べ、分析してみました。読者の皆さんの興味・関心に合わせ、記事を選べるような構成になっているので是非ご覧ください。

認知バイアスに関するWebコンテンツ紹介

認知バイアスの知見がつまった4つのWebコンテンツを紹介していきます。それぞれどのような特徴があるか捉えやすくするために、対応関係を以下に図のように示しました。

今回、1番最初に紹介するのは「錯思コレクション」というサイトです。認知バイアスとは何なのか、例題などを通じて簡潔に解説しているものになっています。日本語で書かれており、初学者にとってもわかりやすい内容や文体になっています。ぜひこのサイトを一読してから、次の記事やサイトを見ることをお勧めします。 錯視コレクションに目を通した後は、目的別に3つのWebコンテンツを読んでみてください。例えば「もう少し認知バイアスの種類を見てみたい」と思った方は、2が参考になるでしょう。「どんなときに認知バイアスが役立つか知りたい」と、認知バイアスを有用性の観点から深堀りたいと思った場合には3をおすすめします。また、「認知バイアスをデザインにどう活かすか知りたい」と、認知バイアスとデザインの結びつきを知りたい場合には、実際のプロダクトを通じた説明をしている4を読んでみてください。ここに示す順番はあくまで筆者が推奨するものに過ぎないので、上図に囚われすぎずに、自分の興味をもった記事を読んでみてください。

では、さっそく記事やサイトを解説していきたいと思います。

① 錯思コレクション

 

Webサイトリンク:https://www.jumonji-u.ac.jp/sscs/ikeda/cognitive_bias/cate_s/

これは心理学を専門とする、日本の大学教授らによって作られたサイトです。日常のさまざまな瞬間に焦点を当て、認知バイアスを解説しています。バイアスごとにそれを実際に日常でどのようなシーンで用いるのか考える機会を提供することが特徴のサイトで、学術的な論文や書籍をベースに構成されています。今回紹介する4つの中では最も学術的な観点から書かれているといえるでしょう。他の3つとは異なり、日本語で書かれているという特徴もあります。

出典:https://www.jumonji-u.ac.jp/sscs/ikeda/cognitive_bias/cate_d/d_03.html

本文サイト内で実際に紹介されているバイアスについて、具体的に見ていきましょう。ここでは具体例として、アンカリングというバイアスを取り上げます。バイアスのページは、大きく3つのパートで構成されています。まず、冒頭ではアンカリングがどのようなバイアスなのか端的に記述しています。ここで着目したいのは、冒頭の段階では具体的な定義というよりも日常の中での事例に言及している点です。親しみやすい事例を最初に用いることで、アンカリングという概念を容易く理解することができます。冒頭右のイラストでは、そのバイアスがどのようなタイミングで派生するのかというタイミングベースでの分類を示しています。

続いて次のパートの「考えてみよう」では、アンカリングというバイアスが起こりやすいような簡単な例題を読者に提示しています。実際にここでバイアスにかかった状態を疑似体験できる訳です。

最後の解説では、アンカリングの詳細な説明と共に例題の解説を行っています。例題の最後には参考文献が記されているので、もっと深く知りたい人はここから理解を深めることができます。誰にとってもわかりやすい言葉と形式で、簡潔にバイアスを紹介しているため、認知バイアスの全体像をざっくり掴むことができます。

② 50 Cognitive Biases to be Aware of so You Can be the Very Best Version of You

Webサイトリンク:https://www.titlemax.com/discovery-center/lifestyle/50-cognitive-biases-to-be-aware-of-so-you-can-be-the-very-best-version-of-you/

これは、日頃の作業ミスにつながるようなバイアスを見つけ、わかりやすいように図解している記事です。認知バイアスを日常で見かける「あるあるの癖」として収集しており、共感しやすい口調で書かれています。

記事中には以下のような短い動画もあり、それを通じて認知バイアスの概要について親しみを持って触れることができます。どのようなバイアスがあるのか、またどのようなときにそれらは起こるのか既視感のある動画を通じて「日常における認知バイアスとは何か」を知ることができます。

TitleMax Cognitive Biases

また、筆者が見つけたバイアスはサイト内に羅列もされており、最終的なアウトプットとしてはMemory/Social/Learning/Belief/Money/Politicsの6分類に基づき、バイアスを分類しています。分類について記事内では明記されていませんが、バイアスが起きやすいタイミングと関係していると推測することができます。

③ Cognitive bias cheat sheet

Webサイトリンク:https://betterhumans.pub/cognitive-bias-cheat-sheet-55a472476b18#.1w31ablvk

3つ目は、元Amazonやslackのプロダクトリーダーであるバスター・ベンソン氏による記事です。本文ではwikipediaの認知バイアスの単調さに疑問を持つところから始まっており、彼の実務経験を活かしてwikipediaの記事を再分類し、わかりやすく図示化するという取り組みを行っています。

具体的には、「認知バイアスを活用するメリット」に着目し、そこから各バイアスの分類を行っています。例えば、身の回りの情報が多すぎるとき、認知バイアスがあれば優先度の高い情報を無意識に収集することができます。このように認知バイアスの危険性ではなく、有用性に着目しているという点では画期的な内容となっています。

文章内では認知バイアスが有用になるタイミングは、具体的に次の4つだと述べられています。

①情報が過多に存在しているとき
②十分に意味がつかみ取れないとき
③迅速に行動する必要があるとき
④記憶するとき

では、このタイミングでバイアスはどのように活用できるのでしょうか。

出典:同サイトより引用

前述した4つのタイミングでバイアスを活用できるように、バイアスを分類したものが上図です。どんな問題に対処したいかに応じて、関連項目を参照することで、解決に役立てることができます。例えば、目の前の情報量が多すぎて困ってしまった場合は上図右側の「Too Much Information」付近のバイアスを参照してみると、解決の糸口につながるバイアスが見つかるかもしれません。

認知バイアスの解釈の仕方は、記事によってニュアンスが少しずつ違っています。この記事では先述したように、認知バイアスを「目の前の問題を解決するときに頼りになる解決策」として捉えています。一方で、一つ前の記事では「知っていることで、日常のミスを減らすことができるもの」として紹介されています。「このニュアンスが正しい」という正解はありませんが、同じ認知バイアスを取り扱っている記事であっても解釈に違いがあることは興味深いことです。

④ The Psychology of Design~106 Cognitive Biases & Principles That Affect Your UX

Webサイトリンク:https://growth.design/psychology#priming

最後は、カナダのデザイン会社が作成したWebサイトです。ユーザーのUX体験を向上させるために、サービス作成につながる活用できるであろう106の認知バイアスを紹介しています。

紹介されている106のバイアスの1つとして、フィッツの法則を取り上げてこのサイトの概要について紹介します。下図に示すような形式で、サイト内では認知バイアスの内容を1つずつ丁寧に紹介しています。

出典:https://growth.design/psychology#fitts-law

詳しく内容を見ていきましょう。中身は大きく3つの段階に分けられています。まずタイトルと共に関連のある絵文字を配置しています。タイトルと共に、そのバイアスがどのような内容なのか簡潔な言葉で示しています。次に、どのようなバイアスなのか具体的にその定義を記述した文章がつづきます。

最後に、フィッツの法則が具体的に使われている事例を解説しています。今回の場合、AmazonとAdobeを取り上げて解説を行っています。その下には参考文献も記されています。このサイトの大きな特徴は、バイアスの観点から実存するサービスについて分析する「事例紹介」というコンテンツがあることです。以下の画像はAmazonのサービス分析の例です。フィッツの法則の「大きい要素はアクセスしやすい」ということに着目し、Amazonで日用品を買うときのボタンの大きさに言及しています。具体的には日用品を1度買うボタンよりも、サブスクリプションとして定期的に購入するボタンの方が大きいということです。左のゲージは、ユーザの感情を示しています。このスライドでは、ボタンの使いにくさに落胆したユーザの体験価値は低いものとなっています。カスタマージャー二ーのように、どのタイミングでユーザのポジティブ感情・ネガティブ感情が上がるのかストーリーに沿って紹介する形式のため、非常にわかりやすいものとなっています。

出典:https://growth.design/case-studies/amazon-purchase-ux

サイト自体はまだ更新中のようで、全てのバイアスに対して解説文がついている訳ではないですが、バイアスの一覧表(サイト上ではチートシートと呼ばれている)などもダウンロードすることができます。

紹介は以上となります。自分の興味・関心に合わせて、いくつかサイトや記事を読んでみてください。今回は記事の紹介に留まりましたが、認知バイアスについての理解を深めていただけたら嬉しいです。ユーザーをその人の属性のみならず、人間という種としての性質も含めて理解することで、よりユーザーに寄り添ったプロダクト・サービスをデザインすることにつながるのではないでしょうか。

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