「ベジタリアン・ヴィーガンの食生活を豊かにするサービス」の機会領域探索に向けたデザインリサーチプロジェクト報告レポート

ANKR DESIGN
2022-04-27

弊社では、インターン生が関心を持つテーマを一つ選び、その機会領域を探索するために社内メンバーのフィードバックや協力を得ながらインタビューや分析、コンセプトを作成するまでのデザインリサーチを自主プロジェクトとして実施しております。

今回は「ベジタリアン・ヴィーガンの食生活を豊かにするサービス」を対象に、2021年12月から2022年4月にかけてプロジェクトへ取り組みました。

このテーマ選びの背景にあるのは、インターン生自身のインバウンド専門の旅行会社でのアルバイト経験です。彼女はそこで、訪日外国人の中でも特にベジタリアンやハラールの方々にとって、食事に苦労する場面が多くあることを知ったといいます。それは、環境問題や健康意識といった観点でベジタリアンを実践する人が日本でも増えているものの、ベジタリアンに対する理解はまだまだ浅いため、国内に彼らに向けた対応を行っている飲食店は少ないためです。単なるインバウンド消費を目的としたベジタリアン対応に留まらずに食の多様性が尊重され、「ベジタリアンやヴィーガンの食生活が豊かになる」ことをテーマにサービスを考えたいということで、このようなテーマ設定に至りました。

以下では、このプロジェクトに取り組んだインターン生の視点から「プロジェクトの流れ」と「リサーチを経て気づいたこと」について紹介し、最後に今後の展望について述べます。

プロジェクトの流れ

まず、本プロジェクトでは次で示す流れに沿ってリサーチを実施しました。それぞれのステップでの具体的な取り組みについてご紹介します。

1.デスクリサーチ

2.インタビュー

  1)リクルーティング

  2)スクリプト作成

  3)インタビュー

3.インサイト・HMW作成

4.アイディエーション

5.コンセプト作成

1.デスクリサーチ

デスクリサーチとして、ベジタリアン関連団体のホームページやベジタリアン・ヴィーガンの生活を発信しているブログを通じ、ベジタリアンの普段の食事に伴う生活行動、飲食店の対応状況などについて調査しました。

<調査結果の概要>

・2021年12月時点で日本でのベジタリアン人口割合は5.1%(Vegewel調べ)

・ベジタリアンにはヴィーガン含め5–15種類前後の分類(定義による)があり、流動的。その対象は食に限らず衣服や生活用品に及ぶこともある。

・ベジタリアンになる背景は、健康、環境、動物愛護、飢餓問題、宗教、スピリチュアルな理由など様々。

・2022年4月時点で、ベジタリアン・ヴィーガン対応の食品や飲食店に向けた認証は民間団体によるものに限られるが、日本ベジタリアン協会や農林水産省、東京都で作られたプロジェクトチームにより、日本農林規格(JAS)新設を目指す動きが見られる。

2.インタビュー

1)リクルーティング

オンラインインタビューマッチングサイトにて、以下のような文面でインタビュー募集を行いました。結果、応募頂いた3名の方とzoomにてインタビューをさせて頂くこととなりました。

日本で暮らすベジタリアン・ヴィーガンの方々の豊かな食生活を支えるサービスを企画しています。 

ベジタリアン・ヴィーガンの方々が外食や自炊をする上で感じる課題点や理想の食生活についてお伺いしたいです!

・応募必須条件

日本でヴィーガン・ベジタリアン生活を半年以上毎日続けている方 (オリエンタルベジタリアン・ラクトベジタリアン・ラクトオボベジタリアン・ペスコタリアン・ポーヨベジタリアン・フルータリアンを含む)

2)スクリプト作成

インタビュー時間を1時間と設定し、全体の時間配分計画と質問リストを作成しました。

まず、主なトピックを以下のように設定し、その流れに沿って詳細な質問リストを事前に作成しました。

・避けている食品など現状の食生活スタイル

・ベジタリアンになった経緯

・外食時の経験

・自宅で食事する際の経験

3)インタビュー

応募頂いた3名の方に、オンラインでの半構造化インタビューを約1時間ずつ実施しました。書記1名が同席し、許可を頂いた上で録画も行いました。

インタビュイーによって避けている食材や厳格さは様々な中、ベジタリアンの食生活を始めた経緯や目的、日常生活での食や健康に関する体験について詳しくお話を伺いました。お話の中で印象に残ったエピソードやトピックは、インタビュイーごとにまとめて記録しました。

3.インサイト・HMW作成

インタビュー内容はMiroを利用して分析を進めていきました。

まず、伺ったお話を付箋に書き出して普段ベジタリアン生活を送る上で感じる課題やニーズを抽出し、「情報収集」「食材を買う」「外食に行く」といったタッチポイントごとにまとめていきました。

次に、課題やニーズの内容自体に着目して似ているもの同士をグルーピングし、その後インサイト抽出を行いました。インサイトを抽出する際、それが①new(新しい)②unexpected(容易に予測できない)③actionable(行動につながりそう)④explainable(読めば理解できる)であるかどうかを意識しながら進めていきました。

その後、抽出したインサイトをもとにアイディエーションのための問い "How might we?"を作成しました。作成した40個の中から、活発なアイディエーションが期待できる以下の3つを社内5名の投票によって選定しました。

①「どうしたらベジタリアンの食生活を一つの価値観として捉えられるようになるか?」

②「どうしたらノンベジタリアンとベジタリアンどちらもが同時に満足する外食ができるか?」

③「どうしたら、ベジタリアン食による健康への影響や自分の健康状態を把握できるか?」「どうしたらベジタリアン生活を始めることで受け得る健康への影響を前もって把握することができるか?」

4.アイディエーション

選定した3つのHow might we?に対するアイディエーションを5名のメンバーで実施しました。互いのアイディアから新たな発想や展開が生まれるよう、1つのHow might we?に対して個人でのアイディア出しとメンバー同士の共有を繰り返し行いながらアイディエーションを進めていきました。

5.コンセプト作成

出たアイディアの中から、課題に対する有効性や新規性があると考えられるアイディアを以下の6つ選出しました。それらを価値仮説シート形式のコンセプトとして作成し、イラストやストーリーボードの形でビジュアル化しました。

How might we?:「どうしたらベジタリアンの食生活を一つの価値観として捉えられるようになるか?」
コンセプト①

ベジタリアンフェアを開く。

「ベジタリアンは体に悪い過度な食事制限」と考えるノンベジタリアンがベジタリアン食の健康効果や美味しさへの理解を深められ、ベジタリアンが受け得る身近な人からの反対や心配を減らす。

How might we?:「どうしたらノンベジタリアンとベジタリアンどちらもが同時に満足する外食ができるか?」
コンセプト②

ドリンクやスペース利用の代金を払えばテイクアウトやデリバリーで注文したものを持ち込んで食べられる場所を提供する。

ベジタリアンとノンベジタリアンそれぞれが自分の好きなものを同じ場所で食べることができる。

コンセプト③

ベジタリアンメニューに肉や魚を追加トッピングできるノンベジタリアン向けのオプションを用意する。

ノンベジタリアンとベジタリアン両方が我慢して相手に合わせることなく満足できる食事を楽しめる。

コンセプト④

飲食店で店員と話すことなく各自のスマホでメニューを選んだりベジタリアン向けの対応を依頼したりできるサービス。

ベジタリアンであることを周囲に打ち明けて反対や介入を受けるということを避け、ノンベジタリアンと気軽に外食を楽しむことができる。

How might we?:「どうしたら、ベジタリアン食による健康への影響や自分の健康状態を把握できるか?」「どうしたらベジタリアン生活を始めることで受け得る健康への影響を前もって把握することができるか?」
コンセプト⑤

ベジタリアンに関する専門知識を持ったメンターに食事に関するアドバイスを受けられるチャットサービス。健康を維持しながら自分の体にあったベジタリアン食のスタイル(頻度や厳格さ)を見つけられる。

コンセプト⑥

毎月ベジタリアン向けの献立表が送られてくるサービス。

事後的に食べたものを入力する手間なしに、必要な栄養を確保しながら健康なベジタリアン生活を続けられる。

リサーチを経て気づいたこと・学んだこと

今回、デザインリサーチの一連の流れを経験する中で、取り組んだプロジェクトテーマとリサーチ手法に関して気づいたことと学んだことを以下に述べます。

・インタビュー中、用意した質問リストから網羅的に質問しようという意識が働いてしまい、特に興味深い話を掘り下げる時間が取れなかったことがありました。インタビュイーの回答内容に応じて、特に深掘りして訊くべきところとそうでないところとを判断し、メリハリをつけてインタビューを進めていく必要があると感じました。

・インタビューの質問の仕方として、ある特定の体験を具体的に聞く聞き方が重要だと学びました。例えば「普段どんな場所で外食をしますか」と普遍的な体験を聞くよりも「最近誰とどのような場所に外食に行きましたか」といった具体的な体験を一つ思い浮かべてもらいます。これによってインタビュイーにとっては話しやすく、聞き手にとっては状況がイメージしやすくなり、よりインサイトフルな話を引き出せると実感しました。

・インタビューの際、自分自身が持っているバイアスに気づく大切さを実感しました。今回私はデスクリサーチ時点で、ベジタリアンの方は「特定の食べ物の誘惑」や「栄養確保の難しさ」を課題として抱えているということを予想していました。しかし、今回インタビューした3名は全員が健康目的でベジタリアンを始め、現状の食生活を肯定的に捉え、実際に健康効果を実感していました。ベジタリアンには様々なカテゴリーがあり、またベジタリアンを始めた経緯や目的も様々であるので、それによって抱えている課題は異なると考えられます。私自身デスクリサーチで知った事柄がバイアスとなってしまっていたのではないかと気付かされました。

・今回のデザインリサーチではHow might we?の選出とアイディエーションの際のみ複数メンバーで行いましたが、途中でリサーチに参加してもらうメンバーにはそれまでの経過をきちんと共有する必要があると学びました。特にアイディエーション時には、一つのHow might we?ができた背景にどのようなベジタリアンの体験や課題があるのかを伝えることで、本質的な解決策のアイディア出しに繋がりやすくなると感じました。

・新規性のある解決方法を目指しながらも、アイディエーションでは既存サービスを流用するようなアイディアも多くありました。従って、インサイト抽出やHow might we?作成の時点で、ベジタリアン・ヴィーガンが抱える課題ならではのインサイト・How might we?を作る必要があると感じました。

以上、「ベジタリアン・ヴィーガンの食生活を豊かにするサービス」の機会領域を探索するためのデザインリサーチプロジェクトの流れとリサーチを経て気づいたことをご紹介しました。

今回のデザインリサーチを経て、ベジタリアン・ヴィーガンの食生活のあり方への理解や対応が未だ十分でないという一面が明らかになりました。ベジタリアン・ヴィーガンの食生活のあり方が一つの価値観として尊重され、食の多様性が実現される世界に向けて、今後もリサーチを続ける必要があると考えられます。

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